朝凪のアクアノーツ

 twitterで多少書いたんだけど、言葉足らずにも程があったので。



 亜樹くんと深緒ちゃんは、別に運命的な出会いをしたわけではない。二人は物語の始まる前から普通に知り合いで、クラスメイトで、だけど互いをちゃんとは知らなかった。
そんな二人の間の縁は、亜樹くんが夜の海で制服とノーパンで歌う深緒ちゃんを見て、その時起きたある出来事から、深緒ちゃんがごっついハンマーで亜樹くんをぶん殴るべく付け狙うところから始まる。


"亜樹「どうやって、人間の姿になってたんだ? そのハンマーをどうやって使うんだ?」
深緒「どう、って……何でそんなこと聞くの?」
亜樹「い、いや、何となく……気になってさ」
深緒「変なの」
クスリと小さく笑む。
変か? わりと気にならないか、そういうのって?
深緒「別に特別なことはしないんだけど」"

 ある事件から後、二人はちょっと仲良くなりはするのだけれど、亜樹くんはノリが微妙にオヤジでデリカシーがないし、深緒ちゃんは対人関係の作法がよくわかってない。二人の会話はどことなく不器用なのだけれど、でも深緒ちゃんの服は濡れて透けてるし、ノーブラノーパンで、夕暮れの海岸でふたりきり、身体は無駄に密着している。亜樹くんは深緒ちゃんの"秘密"を共有する立場だっていうのもあって、それが妙に距離感を狂わせる。

 なんというか、夏、なのである。夏は汗をかくことを通して、自分の身体を強く意識させられる季節だ。二人の間の空気ももわりとした湿気を孕んでいて、でも肌は露出しているからか、身体的な距離感はどこか近い。近いんだけど、それもなんか暑苦しくて鬱陶しくもある。そんな曖昧な空気の中で、下らない、カタルシスも意味もないような会話や出来事を積み重ねて、それで二人の距離感はだんだんと近づいていく。


"亜樹「……朝凪も、綺麗だ」"

 夜中、手を繋いで同じ海の中でぷかぷか浮いていて、きれいな天の川を一緒に見上げている。それだけ舞台を整えられれば、そりゃまあ似合わない気障なセリフだって出るというものだろう。それを聞いた深緒ちゃんの嬉しそうなこともまた、良くってね。赤くなるとかじゃなくて、もう一回言ってよ、ねぇ、なんて亜樹くんにねだる。
亜樹くんのそれは、板についたかっこよさなんかでは全然ないんだけど、深緒ちゃんが嬉しそうで、亜樹くんも嬉しそうで、ああ夏だなあ、と思う。



 ほんとねえ、綺麗にまとまった話になんかさっぱりならなくて、あっちゃこっちゃ迷走した挙句に結局平凡なところに戻ってきたりする。それでも、あの平凡であっさりしたお祭りが亜樹くんや深緒ちゃんの胸に何かを残していたのと同じように、そんなしょっぱさこそが二人にとって大事なものだったのだろう。