朝凪のアクアノーツ(2)

"俺はもしかして、一時の感情でメリーを抱こうとしているのではないだろうか?
こんなにも純粋で健気な子を、興味本位で……。"
"亜樹「俺のことをそんな風に思ってくれてるってことも……知らなかった」
「でも、今日……今の俺はメリーのこと、猛烈に、『女の子』として意識している」"
"「ごめん。……こんなのは最低だ。告白されたからって……急に手のひらを返したように……」
メリー「ぜ、全然最低じゃないよ? メリー、慧本くんにキスして貰って……嬉しかった……」"
"「メリーの方こそ、ごめんね……。慧本くんと取引するみたいなことを言って……」
「でもメリー本気なの。慧本くんのことが好きなの」
「だから慧本くんがメリーのこと、あんまり好きじゃなくても……いいよ。メリーのこと、触りたいって思ってくれたのなら……」"

"亜樹「メリーは、そんなこと言ったらダメだろ……」
「俺の知ってるメリーは、そんな風に言ったりしない女の子なんだよ」
メリー「……」
亜樹「でもそれは、俺がメリーのことをまだ全然判ってないってことなんだよな」
「俺、知りたいんだ。メリーのことを。俺の知らないメリーを知りたいって。心の底から望んでいるんだ」
メリー「慧本くん……」
「メリーのこと……知って下さい。もっと知って下さい」"

 亜樹くんの瞳の中で、メリーちゃんの、男女のことなんかとは縁の無さそうなピュアさとか、好きになってくれるならセックスしてもいいよ、なんて言っちゃう浅ましさとかが揺れ動いて入り混じる。メリーちゃんルートはなんというか、非常に「いい話」だ。


 そして、そうしたやり取りが全て、二人が夏休みの宿題のための勉強会をしている亜樹くんのお部屋でなされる、という辺りもなんだか好きでね。夏休みの八月の午後、亜樹くんの部屋で二人話す内容は、本人たちからすればすごく一生懸命で大きなことではあっても、他人から見れば些細なことでもある。せせこましくて、行き場のない感じがあって。
 夏休みっていうのは浮ついたもので、時間はたっぷりあるくせに、しなければならないことなんて無くってね、向かうべき場所は見えないし、空気はもやもやと揺らいでものごとの輪郭を曖昧にする。
 そんな夏休みの空気の中で、お互いの輪郭を確かめるみたいに手を伸ばすのだ。亜樹くんも自分でわかっているよう、メリーちゃんに手を伸ばす気持ちには、単なる一時的な性欲だって入り交じっている。けれど、そうした性欲まで含めて亜樹くん自身を形作るものなのであって。手を伸ばしあい、セックスをすることで、汗臭く浅ましくもあるような、互いの肉体を感じられる。

"メリー「ね、慧本くん。メリーのこと……好き?」
亜樹「ああ。好きだぞ」
メリー「……。もう一度言ってよ?」
亜樹「好きだよ」
メリー「ううーんっ! もう一回!」"

(上記やり取りの後日、二人で町を歩きながら)

 んでさ、汗臭かろうが浅ましかろうがやっぱり亜樹くんは亜樹くんで、メリーちゃんはメリーちゃんでね。彼女のCVは金松由花さんで、非常に愛らしいし。まあなんというか、うん。とてもいい話なんです。