水の都の洋菓子店 体験版


 "ポケットに恋をつめて"*1の情報目当てでエロゲ雑誌を買う→この作品の名前を見かける→名前だけで心を撃ちぬかれる、の流れでダウンロードしてみた体験版。結論から言えば、よい出会いでした。


 タイトルにもある水の都、どう見てもヨーロッパのどっかなのに、思いっきり日本。何故か日本。センターヒロインの子は、くすんだ桃色の髪に二つ結びの髪型で神秘的な力、どう見てもヒロイン力高そうなのに、実際には残念な感じの女の子。概ね万事がそんなくだけた調子なのだけれど、それでも水の都は美しいし、ひろびろとしている。

"つぐみ「……私が兄さんに一番合うと思ったケーキは、苺のミルフィーユだったんです」
麻里「? そうなの?」
つぐみ「でも、こんなこと伝えたら、私が兄さんをどう思ってるか、気付かれてしまうかもしれません!」"

"麻里「どういうことかな……。つまり、つぐみちゃんも苺のミルフィーユが一番好きなの?」
つぐみ「いえ、違います。私が好きなのは、あんずのタルトです。兄さんのケーキなら何でも好きですが」
麻里「??????」
つぐみ「どうかしましたか?」
麻里「いや、ジェネレーションギャップの類かと思うのよね、うん」"

 一番気に入ったところを引っ張ってくるなら、ここかしらと思う。つぐみちゃんもミルフィーユが好きなの? という言葉は、麻里さんなりにつぐみちゃんの言葉の理由を忖度したもので、結局それは当たってはいないのだけれど。でもそれは、つまり麻里さんにとっては「互いに同じモノを好きである」という状態が、ある種こう、甘酸っぱくてステキなものとして映っているということだとも思うわけでね。
 そういう風にほろりとこぼれる、なんだろ、それぞれが持つ甘酸っぱいなにかへのイメージが、素敵だなあと思うところ。ここで言うイメージというのは、甘酸っぱい気持ちや恋心そのものじゃなくて、それぞれの心の中にある甘酸っぱい気持ちや恋心の原型というか、記憶というか、そういうもの。自分の感じているものの中から引っ張り出してきたものというか、そんな感じの何か。
 そこにはつまり、麻里さんやつぐみちゃんにとっての幸せなもの(というか、「幸せ」と言語化される以前のもの)が存在するんだと思うので。水の都の、不思議の香りのする洋菓子店を舞台にして、そうしたイメージは、ごく自然に日々の生活の中に溶け込んでいるように見える。ジェネレーションギャップなんて可笑しい言葉と一緒にさ。


 「夢」とか「やりたいこと」とかね、そういう言葉も浮かないんですよ、この水の都では。地に足をつけたままで、そういうものの話をできるってのが、まあほんと素晴らしいなあ!と思う。以下のは、二十歳かそこら(推定)の、ちゃんとした人たちの会話。現実的な、数年単位の実行プランとかきちんと考えつつ、こういうことを話してるのね。

"麻里「そういうことなら、ここでその夢叶えちゃいなよ!」
純「え、ここで?」
麻里「うん、絶対ここでするのがいいよ! この綺麗な街で、やりたいと思わない?」
純「そうか……。それがいいかもしれないね!」
麻里「じゃあ、純ちゃんはいずれこの町に住むこと。決まり!」
純「いや、そんな簡単にはいかないけど……」
純(僕の夢。それは、人を幸せにできるような、洋菓子の店を開くこと。口に出すと、かなりくさいな……)
(でも、麻里に言われて、僕はここでそれを叶えたかったんだと思えてきた)
(幼い時を過ごしたこの街で)
(初恋の女の子が住むこの街で)"


 あと他にも色々。他人に勧められるかどうかというとまあどうだろうという部分もありつつも、ともあれ好き。

*1:Skyprythemのライターさんとかが参加してる作品。超応援中