Sugar+Spice2(2)

(承前)

それとはまた別にギブアンドテイクとか利害の一致、という言葉が使われることもある。例えば、響くんと薫子さんの間で使われるそれとかね。

"薫子「今日の夕飯は私が用意しようかしらね」"
"響「……どうしたんだ、どういう風の吹き回しだ?」
薫子「あら、天本くんの手の事を気遣ったつもりなんだけど、どうしてそんな風に言われないとならないのかしら」
響「……本当にそれだけか?」
遠野が悪い奴だ、なんて思いはしない。けれど、単純な善意で動くほど簡単な奴だなんて風にも思っていなかった。
なんの裏があるんだ……!
薫子「ええ、久しぶりに食べたいものがあったから。だったら、私が用意してもいいでしょ」
響「ああ、なるほど。俺の手はついでって事でいいのかな?」
薫子「そうね、利害の一致とでも言うのかしら」
だけどそれで用意するのは遠野なんだから、利害の一致というよりは俺がラッキーだったって言うべきなんだろうな。
それに、自分のために遠野が用意したい、というのなら納得できる。
響「じゃあ、頼らせてください」
("そのソース凶悪につき"より)"

 響くんが薫子さんを家に招いた時、別に響くんは薫子さんという人格そのものに対して関係を結んだわけではなかった。だから未だに響くんと薫子さんの間の関係は定まっていなくて*1、だから薫子さんは響くんとの距離のとり方を探している。最初のキスも、ルームシェアとは別問題として「薫子さん」と「響くん」同士がどういう関係を結べばいいのかと、それを模索した結果なのだろうと思うし。でもまあ薫子さんも大概に不器用だからそういう思わせぶりしかできないし、響くんはそういう距離調整がいちいち大雑把だしね、結局二人の関係はよく分からないままで。
 で、響くんはずるい人だから、こんな風に薫子さんに「利害の一致」だなんて敢えて言わせてしまう。だけどもちろん薫子さん自身もその共犯であって、薫子さん自身が響くんにそう問わせるように振舞っているのであって、だからこの二人の関係は「利害の一致」って言葉を与えられたまま、本当のところはよく分からないで宙吊りにされ続ける。

 利害の一致って言葉は実に納得のしやすい答えだけれど、でももちろん純粋な利害の一致やギブアンドテイクなんていう関係は、そうそう成立するものじゃない。どうしたって人情とか色んなものは入ってくるし、上で引用した場面にしたところで、薫子さんが響くんを気遣っている要素だって当然あって、実際そのどちらがメインかなんて、分かりはしないのだ。でも利害の一致といっておけば、とりあえず双方が納得できるんだと、そういうたぐいのもので。

*1:響くんは薫子さんとの関係をさなさんに問われた時、「ルームシェアも俺と、というより姉さんとしてるって言った方が合ってるだろうし」と答える