Wing&Wind

"紗夜「同じなんだ」
ポツリと呟くように言う。
俊介「同じって何が?」
紗夜「私が生まれてからの時間とあの星の光がこの星に届くまでの時間が」"

 アンタレスと地球の距離は約550光年あるらしいです。むろん俊介さんにその年月を過ごすことが具体的にどんなものかなど分かるはずもない。紗夜さんにとってだって、それは俊介さんに対して語りようも伝えようも、どうしたってあるものでもなかっただろうし。

"紗夜「うん……すごく遠いんだろうね。……あのね、バカなことを思ったんだけど聞いてくれるかな」
俺の方に向き直りながら紗夜さんが言った。
俊介「バカなこと?」
紗夜「あのさ、あの星の光って私が生まれたときぐらいの光って言ったよね。だったら、もし私があの星に行ってすごく性能の高い望遠鏡で地球を見たとしたら、その時の私が見られるかもしれないかなぁ、なんて思ったんだ」"
"「だとしたら、ずっと観察していれば生まれたときから今までの私のことをずっと見られるかもしれないね」"

 そこで、d=tcなる式によって時間を距離に読み替えることで、過ぎ去った長く遠い時間がまるで目の前にあるかのように言えてしまうというのは、どこか詐術みたいな不思議な話だ。


 夏休み、田舎の従妹のお家で、上げ膳据え膳のだらだらした暮らしをしてる風情がよいです。
 朝起きて、従妹の子から朝練に付き合ってと言われるのを断って、だけど朝ごはんを食べるために一階に降りたら、実はその子がお弁当を作ってくれてたことを知る。んで、ついついその子を追いかけて学校までお弁当を持って行ってしまう。大体がそういう適当でだらだらした感じでものごとは営まれる。

 だから550年の話も、やっぱり具体的な話としてあらわれるわけではないし、でも紗夜さんはそこにいるよねというのは、それはそうだったので。特にオチもない話。