フォトカノkiss, 早倉舞衣ちゃんLルート

"「新体操は、技の難易度を競うのはもちろん、それ以上に、美を表現しなきゃならないんです」/「そっか…それって、ちょっとわかる気がするよ」「え?」「俺も、写真を始めたばかりで、どうすれば、いい写真が撮れるのかよくわからないんだよね」"

 九月の最初の頃になされたこのだっつん(主人公の男の子のこと)と舞衣ちゃんのやり取りに惹かれて、この二人の道行きを見てみたくなったのでした。

だっつん

 たとえば九堂部長はギリギリのエロスこそ芸術なのだと言うのだけれど、だっつん自身は、芸術とはこれこれこうだと考えて写真を撮っているわけでもないのだろう、とは思う。
 例えばだっつんはこれまで色々な趣味を試してはすぐにやめていたらしいのだけれど、本人は別に「やりたいことを探していた」という語り方はしていない。カメラと運命の出会いを果たしただっつんはすぐに写真を撮ることにのめり込むのだけれど、それだって「ようやく見つけた」みたいなことは言っていないように思える。
 だから、「何か」を求めるというのではなくて、ただだっつんはひたすらに写真を撮る。

"踊る被写体の表情、仕草、ポーズ点その瞬間にしかない輝きみたいなものを切り取るべく、夢中でシャッターを切る。" "いいカットが撮れた時のうれしさ、うまくフレームに収まらなかった時のもどかしさ…、まるで、カメラマンにでもなった気分だった。"

舞衣ちゃん

 舞衣ちゃんはとても魅力的な子だ。春が好きで、自分の苗字(早倉)が気に入っていて、桜が好きで、噴水と向日葵の咲く学校の中庭が好きで、甘いものが大好き。きれいなもの心よいものを邪気なく素直に愛している。親友のお兄さんだからといって、あんまりだっつんに対して無防備すぎるのも大概どうかと思います……まあ、実際だっつんは下心のないひとなので良かったのだけれど。
 だけど――と逆接を使うべきなのかどうか――彼女は中学の頃からずっと体操を続けていて、体を絞るために、甘いものは普段ほとんど口にしていない。素直で邪気のないふるまいと、まっすぐでひたむきなストイックな姿勢が、彼女の中では同居している。

ふたり

 その後ふたりがどんな風に仲良くなったか、どんな風なやり取りを交わしたかというのは、特に語らないでおく。ただとにかく、二人のひたむきな気持ちはそのままに、少しだけそれを探すときの心の置き方が変わったのだと思ってます。"大人になった"みたいな感じがしてこう、ドキドキするものがありました、色々。

 その中で、とても印象的だった一節がこれ。エピローグでの、舞衣ちゃんの語りの中に出てきた言葉。

"「何百枚、何千枚と撮った写真の中に、すごくいい写真が、何枚か生まれることがある」「その枚数が、少しずつ増えていた」」「あなたは、食堂のテラスで、その時の状況や、カメラの設定を思い出す」「同じように私は、会心の演技が出来た時のことを思いながら、思案に暮れる」"

 そうだねえ、と思う。二人のそうした姿があまりに容易に脳裏に思い描けてしまったのがすごい幸せだった。金元寿子さんの声も素晴らしくて、ファンになってしまった感じ。