好きななろう小説いろいろ

 なんとなく、好きななろう(とノクタ)小説の話をしてみようかと思います。読者が増えればエタらないかどうかはともかく、エタる確率も少しは減るのではなかろうか、とかそんなことを思いながらご紹介。いや別に、エタりそうな作品ばっか紹介するわけじゃなくて、完結してるやつも含まれてますが。

@you"Innocent World Online"

http://ncode.syosetu.com/n8335bk/
 MMORPGで無双する話と思わせて、だんだん恋愛話がメインになっていく作品。ちょっと構成がエロゲっぽかったりする。
 クリスマスのオフ会にて、女の子五人と男の子一人が入ってる炬燵(なお女の子四人は寝落ち中)で、クノさんの思考がぐるぐると回ってしまった挙句、二人のひどく不器用な愁嘆場が始まってしまう辺り、大変いいよねと思います。彼らは第一義的にはまずIWOというゲームをプレイする友人同士なのだけれども、そこにクノさんエリザさんフレイさんのラブめいたことがちょこちょこと挟まれたとき、距離感がよく分からなくなっていくこの感じが、悩ましくも心をくすぐるところ。

"「……言いたいことはあるかしら?」
「んー……。なんかエリザと居ると、自制心的なものが剥がれ落ちてくる気がするんだよな。警戒心その他もろもろと一緒に」
「……なにか言い返してやりたいけれど、残念ながら、私も同じなのよね……」"
(74話より)

 すばらです。あと初詣のところとかも大好きだなあ、年明けの空気感が鮮やか。
 ところで、幾つか、なんとなしとらハを髣髴とさせる要素が見られるのもちょっと面白いところ。風に負けないハートのかたち、とか口ずさみたくなる。

弘松涼"異世界でやきたてパン屋を始めたらアホな子ばかりやってきて困っています(あほパン)"

http://ncode.syosetu.com/n2086cp/

"そんな千都留ちゃんは、寂しそうに川を眺めています。
 袋からコロッケパンを取り出して、大切そうに食べている。
 目から涙がポロリと落ちた。"
(1話より)

 異世界転移ものをベースにした、どこか民話、フォークロアめいた*1構造の中に、切実なイノセンスを描いてみせる。
 民話が(えらい雑な言い方を勘弁してもらえるならば)無意識的なるものを描くものだとすると、実際異世界転移ものっていうのは、そういうものを描くために優れたモチーフなのかなと思わなくもない、とかとかそういう話はさておいても、兎にも角にも胸に迫る作品だと思う。絵本化とかするととても魅力的なものになるんじゃないかと思うのだけれど、さすがに無理筋である……。
 最近知ったばかりの作家さんで他の作品はほとんど読めていないのだけれど、多作な人のようなので、これから読み進めていきたい。

どみんみん"常識改変催眠"

http://novel18.syosetu.com/n1702cj/
 どみんみん先生の精確さはほんと尊敬しております。
 もともと楽園とは、「自ら」や「他人」を定める道理の外にしかないのだけれど、道理を投げ捨てた先にあるのは、やはり他の道理でしか無い。だから、信仰、共依存、飛び降り自殺――自らを投げ捨てて、何かと向き合うことを捨てて、なにか「しかない」世界に至ったその一瞬だけが、楽園を幻視することを許される瞬間だ、ということになる。
 レオにーさまは花音さんに催眠によってズラされ続けながら、けれどそれに気づくこと無く、のらりくらりとマイペースを貫く。そこにコミュニケーションが発生してしまえば、そこには道理が生まれてしまう。「ぼく」と「わたし」が生まれてしまう。だから、その楽園が生まれる瞬間は、ただひたすらに遅延され続けるしかない。

"地味な事務仕事を朝は日の出前から、夜は深夜まで晩まで。体か頭ががどうにかなりそうな毎日を送って……
【大丈夫だよ、レオ兄様。花音が守ってあげる】
 ……いや、違った。
 僕の仕事はアイドル事務所のマネージャーだ。なんで建設事務所と勘違いしたんだろう。ぜんぜん類似点がないのに。"
(2話より)

 因果や道理の破壊されたゆるゆるとした快楽に満ちた世界で、未だ訪れないその「瞬間」を予期しつつも、モラトリアムに浸ってそれを回避し続ける、脳がぐるぐるするような時間を描き出す。でもその「瞬間」は、ついには訪れざるを得ないわけで――いや、良かったです。誠実だよね。

秋月アスカ"道果ての向こうの光"

http://ncode.syosetu.com/n0364cx/
 厳密にはなろう作品というわけではないのだけれども、なろうで知ったので。
 取り返しの付かない罪は既に犯されてしまっているのだし、ユーナさんは既に死んでこの世には亡い存在だ*2。それでも主人公の"彼女"は、あくまで聖女シェリスティアーナとして、彼女の為したことへの責任をその身に引き受けてあらねばならない。
 取り返しの付かないことに対して、「正しく」責任を取ることなどできるものではないわけで、そういう"どうしようもなさ"に向き合う時の誠実さとは、多分、尋常な倫理とは少しずれた所にあるものだろうと思う。

"「君の、本当の名前は?」
 優しく問いかけられて、シェリアはゆっくりと瞳を閉じた。
 大きく息を吸い込む。夜の少ししめった空気が胸いっぱいに広がっていく。
 もう一度瞳を開いてそっと空を見上げると、変わらず星空は美しかった。
「――ユーナ」
 懐かしい名前。
 あの空の星のように遠い名前。"
(51話より)

 遠い、遠い――懐かしい名前。そうだよなあ。それはもう終わってしまったものなのだから、それはそうだ。そういう風に、凄みさえ感じられるようなストイックな生真面目さをひたすら貫くからこそ、59話の、"彼女自身の希いの言葉"が鮮やかに映えるのだなあと。

かつ"時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり"

http://ncode.syosetu.com/n6451cr/

"「子供の頃の生活によって、授かるか授からないかが決まるの?」
「はい、毎日水に触れる【漁師】さんは【水の魔法】、毎日土に触れる【農家】さんは【土の魔法】、野外で活動して風にあたることの多い【猟師】さんは【風の魔法】を授かることが多いらしいです」
「はいはい! 私、毎日お風呂に入ってるよ!」
「毎日お風呂に入られていたんですか。それでしたら、きっと【水の魔法】を授かると思います」
「やったー!」"
(16話より)

 この喜んでる子、十八歳の大学生女子です。作者は一種の天才だと思う。なぜか札幌に一人旅してたり、なぜかエジプトで旅行してたり、あと焼き肉してるところとかもとても好きですね。いちいち何でも楽しそうなのが魅力的。

ぱてぃる"俺、異世界で旅スロします。"

http://ncode.syosetu.com/n8964cn/

"異常に速い速度で回転を始めるスロット台、これは打ち手である自分の魔力量が膨大な為にどうしても高速回転をしてしまうのである。しかし、この世界の人は基本スペックが高いおかげか、高速回転するリールを何とか目で追う事が出来るのである。嬉々として七十ゲーム程ユアジャグを回すも、この日は一度もCOCOランプが光る事は無かった。
 こうして俺は旅スロデビューを果たすのだった。"
(1話より)

 パチスロの世界を知らない人間には一から十まで何言ってるか分からないのだが、分からないのに面白いのが凄い。いや別に人間模様とかアツいバトルが面白い!とかそんなんじゃなくて、最初から最後までパチスロの話しかしてないし、それが1ミリたりとも分からないのに面白いのである。
 他にギャンブルがモチーフの作品としては"異世界転生してカジノのオーナーになったが、世界を救うはずの女勇者がギャンブル中毒になってしまった……"とかも好きなんだけど、なろうのギャンブル作品には魔物が潜んでいるのではなかろうかと。


 他にも色々好きな作品はあるのだけれども、ちょっと書き疲れたのでこの辺で。

*1:別作品の"俺のアイテムボックスに、ビッチな女の子をぶち込んでみました"の冒頭とか、丸っきりそんな感じである

*2:なお、書籍版はこのあたりが全然違う捉え方になっていて、名前も粗筋も同じながら、完全に別作品になっています。なかなか複雑。