まじかりっく⇔スカイハイ

 隼人さんとゆりかさんは胸キュン幼馴染エピソードの宝庫ですね。

"ゆりか「だって……はーちゃんが、長い方が似合ってるって……」
(…)
隼人「サラサラなのに柔らかくて……好きなんだよ。このさわり心地」
「だから、長い方がいいって言ったんだ。その分寝ぐせが付きやすいんだろうけど」
ゆりか「ずいぶんと利己的な理由だったんだね」
隼人「利己的とか難しく言わないでください」
ゆりか「じゃあ、自己中だ」
隼人「どっちでもいいわ。いずれにせよ、俺が俺のために、軽い気持ちで言ったようんなもんだ」
「けどな、やっぱり言ってよかったと思ってるよ。今じゃ、髪の短いゆりかなんか想像できないからな」
ゆりか「まあそういう事にしといてあげるね」
「私もね、髪を長くしたおかげで早起きできるようになったし」
隼人「そうだったの?」
ゆりか「だってこのままじゃ表に出れないもん……慣れって偉大だよね」
それが早起きの習慣につながったってなら、俺も早起き出来そうなもんだけどな。
隼人「うっし……あらかた片付いてきたな。これ終わったら、朝飯食いに行こうぜ」
ゆりか「うん……その前に着替えとお化粧するけど」
隼人「あ、そっか。んじゃ、廊下で待ってるわ」"

 別にこう、相手のためを思ってしたこととか好き好き大好きとかそういうのばかりじゃない、ふとしたことが、思い返してみるとお互いの現在とか習慣とかに深く根付いている――そういうものとしてゆりかさんの髪の長さが語られるのが、実にらぶらぶ度高いです。


"隼人「それで、何するつもりなんだ?」
ゆりか「恋人宣言! ここでやろう!」
隼人「こっ、恋人宣言……!? 朝の話、覚えてたのか……?」
ゆりか「ここで、みんなに聞いてもらおうよ!」
ここで聞いてもらおうと言われても……地上は足元のはるか彼方だ。
隼人「ここから叫んでも聞こえないんじゃ……」
ゆりか「空に、だよ。はーちゃんの大切な空に聞いてもらいたいの」
そしてゆりかは、空に向かって語りかけた。
「私、大好きなはーちゃんの恋人になったよ!」
…………。
一瞬きょとんとしてしまった。
目の前のゆりかは、本当に空に向かって、目の前に広がる大空に向かって、大声で語りかけている。
「はーちゃんがそばにいてくれるから、私は前に進んで行ける!」
「飛べない私が、空に届いたんだよ!」
「ぜんぶ、ぜんぶ、はーちゃんがいてくれたからなの!」
「私の好きな人って、すごいでしょーーーー!!」"

 でもって、北見六花最強!なのである。ここがもう、ほんと最高でした。
 少し細くて、けれど強い澄んだ声が、どこまで広がる水色の空に広がっていく。多分少しばかり隼人さんを置いてけぼりにした、幸福でちょっと重い女の子の声だ。ほんとこれは必聴です。

 空は高く広く、隼人さんを魅了する。飛べないゆりかさんはそれが妬けたのだし、でもそんなこと言ったって隼人さんの傍にはずっとゆりかさんが幼馴染として居たわけだし、やっぱり隼人さんにはゆりかさんが初恋の相手だったし。
 隼人さんとゆりかさんは、別に何もかも通じ合ってるわけでもないし、分かり合ってるわけじゃない。でも二人はなんだかんだでお互いがすごく大切な幼馴染で、それは昔の記憶が一部なくたってそうで、別段何もかもわかり合ってるわけじゃなくても、恋でもそうでなくても、それとは関係なく互いを大切にしてるのが、共通ルートからしてよーっっく分かるようになってるのね。
 でさ、ここが大事なのだけれども――その距離感って、互いだけを見て、二人だけの世界に入り込むようなものとは違うんだと思うので。この時ゆりかさんは、隼人さんに語りかけてるわけじゃなくて、空に対して語りかけている。隼人さんとゆりかさんの間に閉じた完全性みたいなものはなくて、その代わり、空に向かってどこまでも伸びてゆく声がある。それはこう、すごく素敵なことなんだよ。


"隼人「どうした?」
ゆりか「いまちょっとだけ、観覧車に乗ってみたいなって……」
隼人「おおっ! ゆりか、高所恐怖症、治ってきたのか!?」
ゆりか「治ってるかどうかは、私にも、よくわからない」
「でも、できるなら、はーちゃんともっといろんなことするために、もっと高いところに行けるようになりたい」"

 ここもほんと良いなーと思います。高所恐怖症が治るっていうのは『観覧車に乗れるようになる』ことじゃなくて、『観覧車に乗ってみたいと感じる』ようになるということだ、というとこ。地味ながらとても素敵。



 隼人さんのゆりかさんへのプレゼントのロマンチックぶりにもやられたし、サライラさんと隼人さんの楽しげな相棒ぶりも大好きだし、シャルルルさんルートの、世界樹のお話に相応しい、世界からの祝福に満ちたすっ惚けた成り行きもとても良かった。そういえば(超々今更だけど)Whirlpool+大三元氏の最後の作品だったんだなあ……。