のまみちこ"さくら×ドロップ"
"さくら×ドロップ"、"ちえり×ドロップ"、"みさと×ドロップ"と全三巻でそれぞれ主人公を変えながらの連作なので、一つずつ感想を書いていこうかなと思っています。各々カラーが違うのに、どれも凄く良いんですよこれが。
"「なっ……!」と、絶句するあたしに『潤一くん』はたたみかけるように続ける。
「ホントはあんただってそう思ってるんだろ? 親の都合で勝手に家族にさせられてさ。仲良くしろって言われたって困るし」"
六年生になる春、親が急に再婚するって言い出して、格好いい同い年のきょうだいが突然できて。それで相手からこんなこと言われたら、そりゃ戸惑うでしょうと。……なんだけどさ、数日すると、あれ?って感じだす。何ていうか潤一くんは、さくらさんに冷たく当たっているわけではないらしい、のである。
"「……悪かったよ」「何が?」「いや、わかんねぇけど」「じゃあ意味ない」「えー」潤一が困ったような顔をする。
仲良くする気がないなら気をつかわなくていいのに。仲良くなれるかもと期待して、裏切られるたびに、あたしは小さく傷つくのに。"
このさじ加減なんです。潤一くんは実は最初からちゃんと真面目にさくらさんに対して向き合っていて、その結果としてああいう言い方になっていた。
でも別に、明確な意図や論理があってそういう言い方をしていたわけでもない。ツンデレみたいに、考えとうらはらのことを言っていたわけでもない。潤一くんだって見た目が大人びてても小学六年生で、言語化っていうのか、自分の気持ちの説明っていうのか、そういうの上手くないのは当たり前だ。でもそれが、一緒に暮らすうちに、ぱっと霧が晴れるようにではなく、少しずつ、なんとなく、さくらさんにも分かってくるんですね。
まあ家族ってなんだろうねなんてのは、問うても栓のないことだ。でも、一緒に暮らして、ちょっとずつ相手の振る舞いが分かってくのとか、やっぱりお互いに甘えみたいなのがあるんだなっていうのとか、そういうのってやっぱり特別さだよねって思うわけで。良いとか悪いとかじゃなく、一緒に暮らしてる相手は、否応なく特別だ。
それで、そんな特別さがさくらさんにとって結局"好き"って言葉に向かってゆくところが、ほんとにねえ、素敵だなあ!と思います。
人それぞれに"好き"のかたちは違う中で、さくらさんが胸に抱くことになった"好き"のかたちが、とても眩しくて伸びやかで。
進路のこととか、潤一くんとお母さんのこととか、もちろんこの子たちを取り巻くものって当たり前にいろいろあるんだけど、それは「好き」の話とは別のことで(もちろん、一緒にしてもそれはそれで構わないのだけれど)、この物語では語られない。語らないことについて殊更にエクスキューズの類を入れないのも、真っ直ぐで好ましいところでした。