Liber_7
Liber_7について何を書こうかなと考えるに、やっぱりまずは直斗くんが好きですって話になるかなと思う。まあね、ヒーローっぽい要素はあんまない男の子なんですよ。未來さんが思ってるほどには1信念だの考え方だのがはっきりしてるとも言い難くて、感情や性欲にふらついてたまに闇堕ちするしさ。
でもきっとそういう、感情に流されるところこそが、直斗くんのよさでもある。
直斗「シュバイ~ン、颯大!」
(…)手をぱちんっと合わせてハイタッチ。
その間、沙綾はぽかーんと口を開けたまま凍りついている。
(…)自分から挨拶したのは、そうしたかったからだ。いつかじゃない今を逃したくなかった。確かめたかったんだ。
颯大は生きてる。打ち合わせたばかりの手を握った。
たとえばこうやって「颯大くんが元気でいてくれて嬉しい」って気持ちに身を任せるとき、直斗くんは全然格好つけないんですよね。
普段、おちゃらけた振る舞いをする颯大くんに対して直斗くんはツッコミをする側に立っているし、直斗くんが颯大くんが生きていることに感慨を抱いてることなんて周りは全然知らないわけで2。だから直斗くんがシュバイ~ンなんて言い出したら周りはもちろん驚くんだけど、直斗くんはそのことに対して少しの恥じらいも躊躇いも抱かないし、自己弁護も必要としていない。
紅愛「どうして……どうしてお父さんは私のこと、愛してくれなかったのかなぁ……」
直斗「……うん」
この時も、「……うん」とただそれだけに留めて言葉を継がなかったの、直斗くんでないとできなかったことだよなって思うんですよ。ただただ、紅愛さんの言葉を受け止めている。直斗くんはこう、根っこのところがすごく素直で無防備な人なんだと思うし、そういうところが見ていていつも好ましくて。
十年以上の時間を過ごす中で、ほとんど偶然に――だいたい1000分の1の確率で――直斗くんは未來さんの心を動かしたわけですよ。多分さほど深く考えてしたことではなかったんだろうし、そもそも1000回のうち999回は失敗してるわけで、いつでも直斗くんは未來さんのヒーローだとかそういう話でもない。でもそれは、いい加減さ、非一貫性、ランダムネスへの愛情でもあるんだろうなって思うんです。それはきっと、「何千回繰り返しても僕はこれと同じ選択をする」の真逆みたいなことで。
ちなみに、個人的に一番好きな瞬間を挙げるならここかなと思います。
静かな寝息を立てて、よく眠っている萌生。萌生が自然に目覚めるまで、このままそっとしておこう。
萌生の少し高い体温と、外から差し込む朝の日差しとが相まって、汗ばんでくる。
けれど、この暑さ自体も、幸せとして実感できる。
ただ素直な愛情を、少しのけれんも大仰さもなく語る――よう太氏による一枚絵も相俟って、透き通るように美しい目覚めのひとときだったと思う。
自他共に認める「天才」たる萌生さんは、自分自身の愛情の動物的さや即物性を屈託なく受け容れているひとだと思っていて、それは直斗さんのものとはまた少し形の違う無防備さなんでしょう。形の違う素直さを抱えた萌生さんと直斗くんの二人は、見ていて幸せになれるカップルだったと思います。
そういえばこのシーンに限らず、繰り返し描かれる沙綾さんとの目覚めとか、三人の女の子が直斗くんのベッドに団子になって寝てる朝とか、紅愛さんと語り合って迎えた夜明けとか、なんだか印象深い朝が多かったですね。そういうのいちいち愛おしくてね、なんていうか、そんな作品でした3。