金色ラブリッチェ-Golden Time-(3)
ところで、絢華さんに二つ目の約束を託すとき、理亜さんはシルヴィさんに対する確認はとっていなかったように見える1。あの約束って、当たり前といえば当たり前なんだけど「理亜さんとシルヴィさん二人のためのもの」ではなくて、「理亜さんの央路くんへの想いのためのもの」なんですね。その根源や動機はあくまで理亜さんにあって、シルヴィさんはその共犯者に過ぎない。
そもそも理亜さんとシルヴィさんの仲の良さと口の堅さのせいで分かりにくいけれど、二人の、あの約束や央路くんと結ばれることについての態度は、実際のところ相当違う2。
央路「お前が言うならそれでもいいけど」
「大丈夫なのか。体調とか」
マリア「無理そうだと思ったらやめるよ。でもそれまでは、な」
「……」
「負けてらんねーから」
このあとの音楽堂でのシルヴィさんとの会話とかを聞くに、理亜さん自身、何に「負けてられない」のかは、必ずしもはっきりしてたわけでもないのかなとも思うんですね。いや、シルヴィさんが意識にあるのは確かでも、シルヴィさんの何に負けられないのか、がさ。
理亜さんにはシルヴィさんと恋の鞘当てをしているつもりはないし、理亜さんはもともと、央路くんがシルヴィさんとくっついてくれたらいいと願っている。でも理亜さんの中には違う想いもあって、そして理亜さんはその想いに対しても、どうにも嘘がつけなくて。
このクリスマスパーティの場で、央路くんシルヴィさんが理亜さんのことを知っていて、かつ央路くんが誰かとくっついていないというのは、前作では無かった状況だ。この時間がそこにあることの、奇跡としか言いようがないような不思議さに、理亜さん自身も、どうしていいか戸惑っているんだろうと思うんですよ。「負けてらんねーから」っていうのは、だからこそぽろりと零れてしまった言葉なのかな、と。
だけどそうは言ったところで、理亜さんもシルヴィさんも物事が見えすぎるほど見えている人で、詭弁やレトリックに縋ることもできないし、どうしようもないことはどうしようもないことと冷静に理解できてしまう。央路くんもまた、「綺麗な終わりだけを望むのがいいのか」なんて問いに意味がないことは知っていて、けれどついそれを零してしまう。答えなんかないことは薄々分かっていて、それでも理亜さんとずっと居たいという想いに嘘はつけなかった。