恋はモフモフ!ラブ・ミー・テディ


 明らかにななついろ★ドロップスに喧嘩売ってるでしょ1みたいな導入から、最後までナンセンスに片足どころか両足まで漬かったみたいなお話ではあった。

 だけどこのとりとめのない会話が、やり取りが、いちいち可愛くて仕方なくてさ。

芽衣「家に代々伝わる文書……秘湯の秘密が書いてある」
俊介「そ、そんなのがあんのかよ! あっ、最初に物を取りに行ってたのってそれのことか!」
芽衣「……うん」
俊介「それを早く言ってくれ!」
何時間もドアを開けたり閉めたりしてる場合じゃなかった。
「それ、俺も見て良いのか?」
芽衣「……誰にも言わない?」
俊介「言わねーよ、二人だけの秘密だ」
芽衣「二人だけの……秘密……」
俊介「ああ、絶対だ。嘘だったら好きなだけデコピンしてもいいぞ」
芽衣「……分かった、絶対の約束」
二人で肩を寄せ合い古記録に目を通す。
(…)
俊介「二人して読めないんだったらよ、尚更こうしてても意味ないぞ……」
芽衣「……芽衣もそう思う」
俊介「止めだ止め! こうなったらダラダラして過ごすぞ! それに温泉旅館なんてものは、何もしないゆったりとした時間を満喫する場所だしな」
芽衣「……仕方ないから、お茶を持ってきてあげる」
俊介「ああ、ちょうど喉が渇いていたところだ。助かる」
芽衣「うん、少し待ってて……」

 このとりとめのなさは実際作品を読まないと伝わらないよなあと思いつつも、引きたいところを引くとどうしても引用が長くなってしまう。

 ともあれ流れを無理に箇条書きにしてみれば、こんな風になるだろうか?

  • 夕暮れ時の芽衣さんの部屋に招かれて、扉の静かすぎない開け方(?)のレクチャーをする。
  • 練習中に特に脈絡なくお兄ちゃんと呼ばせてみたら、何故か芽衣さんがそれを気に入ってしまった。
  • そんで何時間も扉を開ける練習を続けたあげく、ようやく温泉の秘密を調べるために来たことを思い出したんだけど、
  • 芽衣さんが持ってきてくれた古記録を肩を寄せ合って読もうと思ったら、普通に一行も読めなかったので、
  • こうなったらダラダラして過ごすぞ!とか言い出して、とっとと諦めてお茶にした。


 喩えて言うならば、顔を上げてまっすぐ目標に向かって進むんじゃなくて、足元の些細なことに気を取られながらふらふら歩く、みたいな風情だ。

 行きあたりばったりでとぼけたことばかりやってるんだけど、肩を寄せ合うとことか約束とデコピンの件とか、ひとつひとつの言い回しが妙に無防備で、ささやかに楽しげで、読んでてとても幸せになるのです。


有鈴「びびった……罰?」
英美里「デコピンだよ、びびったやつはデコピンされても文句を言えないの」
そう、これは俺と勇也がやっていた遊びだ。
男たるものビクビクしてはいかんと、びびった際には罰ゲームを賭けたのだ。
当初は肩パンだった……が。
仲間外れにするなと英美里が強引に参加してきたのだが。
勇也の加減した肩パンを受け泣くという事態に陥って以来、罰ゲームは肩パンからデコピンに下方修正されたのだ。

 英美里さんが「あ、今びびったでしょ俊介」って指摘するまでの流れも良いのだけれど、そこはとりあえず今は置いといて。

 俊介さん勇也さんの男の子っぽいじゃれ合いに英美里さんが混ざりたがるのは分かるんだけど、まあ英美里さん割と小柄だしさ、男の子と同じ強さで肩パンってわけにはいかんよね。でもそこでホントに肩パンやっちゃって泣かせちゃって、慌てた俊介さん達が肩パンをデコピンに下方修正してマイルールにしたっていうのがさ、とてもいい話なのだ。英美里さんが男の子のルールに合わせるって話でもなく、逆に男の子側が先に気を回したというのでもなく、行きあたりばったりの出来事、成り行きの積み重ねで今があるのね。ホント、素敵なことですよ。



  1. さすがに有鈴さんが一人称はボクの方が可愛いと思うなーとか言い出すのはやりすぎですが、俊介さんが断固拒否するところは違うといえば違うか……。