CUE! / エピソード"グロウアップ・デイズ"


 夜の闇に灯る無数のイルミネーションというのは、悪い意味でなく、どこか落ち着かない気持ちを呼び起こすように思う。 "グロウアップ・デイズ"陽菜さんのエピソードは、日の落ちたオフィス街をお仕事帰りの陽菜さんとほのかさんが歩く、その景色がまずとてもよいのです。

陽菜「イルミネーション……。」
「大人の人がいっぱいだね。」
ほのか「このあたりは、オフィス街みたいだから。」
陽菜「……。」
ほのか「何、考えてるの? さっきから。」
陽菜「わたしがもっと大人になったら、この景色……。どんな風に見えるんだろうなって。」
「今はただ……、わたしなんかがいるの、場違いな景色のように見えて……。」
ほのか「そっか……。」
陽菜「……。」
ほのか「……。」
陽菜「ほのかちゃん……。さっきの収録、すごかったね。」
ほのか「うん。すごかった。」
陽菜「うん。なんていうか……、本当に思い知らされたね。」
ほのか「うん……。」

 陽菜さんとほのかさんって、行き交う言葉が思考がぴったり噛み合う感じの相手とは違うのかなと思うんですね。 別にぎこちない間柄とかでは全然ないんだけど、例えば歩くテンポとか視線の向け方とかが結構違う、っていうか。 実際ここでは、陽菜さんの言葉のゆっくりと噛みしめるようなトーンと、 ほのかさんの言葉の遠くを見ながら思いを巡らせるようなトーンとが、交互に行き来している。

 煌めくような格好いいものに触れた時の浮足立つような気持ちは、焦りと呼べば苦いようだし、憧れと呼べば甘いもののようだ。 揺れてざわめくその気持ちは、陽菜さんとほのかさんという異なる二人の目を通して見るとき、なおさらどれとも判じがたく感じられる。

ほのか「……。」
「あのさ、陽菜。」
「焦る必要はなくて、一歩一歩、成長していけばいいんじゃないかな?」
「もちろん、わたしも一緒だよ。それに、舞花や志穂もね。」
陽菜「ほのかちゃん……。」
ほのか「いずれキャリアに恥じない役者に、ならなきゃいけないから。」
「わたしは……、それが一番、難しい事だと思う。」
陽菜「そう……、だよね。」
ほのか「あはは。あ、何だか偉そうなこと言っちゃったね! 同い年なのに。」
陽菜「ううん。全然偉そうなんかじゃない。」
「わたし、ほのかちゃんに出会えて良かったなぁ。」
ほのか「え? 突然、どうしたの?」

 「そう……、だよね。」ここの陽菜さんの声が別に明るくなってるわけじゃないのがよいのですよ。 もとより夢や絆といったキラキラした言葉にさほど重きを置かない人たちだし*1、言葉のやりとりを通して颯然と悩みが晴れるような運びにはなっていない。ほのかさんが言っているのは、ある意味では陽菜さんと同じ、やっぱり大先輩は遠いね、ということなのだから。

 そしてだからこそ。焦りを吹き飛ばしてくれるからとか、進むべき道を教えてくれるからとかじゃなくて、 ただほのかちゃんに出会えて良かったなぁっていう気持ちが自然に胸を埋める。 細やかで、それでいてしつこさのない、本作らしい素敵な気持ちの拾い上げかたです。

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©Liber Entertainment Inc.

 しみじみ、ぐっと来る開花イラストなんですよね。 ローファーの先に視線を向けて、ちょっと大またになった陽菜さんの歩き方とか、少し眉の下がった表情とか、 ほのかさんとの距離とか、背の高いソリッドな街の景色とかが、どれもこれも眩しくて魅力的なのである。

*1:彼女達はアイドルじゃなくて声優なのである。