CUE! / エピソード"What a girl wants"


 柚葉さんが今朝方から居ないと思ったらシンガポールに飛んでて、それは実は昨日千紗さんとした会話がきっかけで……という成り行きの会話。

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©Liber Entertainment Inc.

千紗「うん、柚葉からみたい。……はい、もしもし。」
柚葉「チサ~! 久しぶり!」
千紗「そんなに久しぶりじゃないでしょ。」
柚葉「うふふ~!」
千紗「それで今、本当にシンガポールなの?」
("What a girl wants" ep2より)

 物理的には昨晩にもおやすみって言葉を交わしたばかりなんだろうけど、でも柚葉さんが久しぶりって口にするのも、それはそれで正しいですね。 柚葉さんはいつもとても楽しそうに千紗さんと話す印象があるけれど、この時の柚葉さんは普段よりなお二割増しくらいで嬉しそうに見える。

 東京とシンガポール、電話越しの会話が普段よりどこかくすぐったいのは、時差1時間1の距離の先にある、目に見えない相手の様子を思い描きながらお喋りをするからだろうか? きっと千紗さんはいつもより少しだけ心配の量が多いし、柚葉さんもいつもより少しだけ伝えたいことが多い。でも電話越しの会話だから、きっと伝わる情報の量もいつもよりちょっとだけ少なくて、どこかもどかしくもあるだろうか。


 柚葉さんは自分の言動や行動に千紗さんがツッコんだりしてくれるときはいつも楽しそうにしてるんだけど、でもそれはきっと、べつだんわざと変なことを言って反応を引き出そうと企んでいるわけではない。

 そうではなくて、柚葉さんの中にある本能や楽しいことを探すセンサーの指し示すままに行動してみたとき、たくまずして千紗さんがそれにツッコんだりびっくりしたり喜んだりしてくれるのが嬉しいのかなと思っています2

 柚葉さんがシンガポールに行ったのも、故郷の炒飯を千紗さんに食べさせてあげようと思いついたのが発端なんだけど、でもそれを千紗さんを喜ばせるための企みと呼ぶとなんかちょっと違う気がするよね、というのも同じことで。

 つまり、なんていうかな。このコミュニケーションには「ツッコミをもらう」とか「千紗さんを喜ばせる」みたいな、達成すべきゴールが予め設定されてたりはしない、と言えばよいだろうか。


 ゴールの設定された会話では、相手の反応がそのゴールに近いのか、それとも離れているのかをひとつひとつ確認しながら会話をしていくものだろうと思います。喜んでくれるはずだと思って口にしてみた言葉への反応が薄かったので、ちょっと言い方を変えてみる、とかね。

 ひるがえって、ゴールがない会話において電話越しの相手の様子に思いを馳せるとき、会話のイニシアチブを取っている人がいないときの、独特のくすぐったさが生まれるものかなと思う。


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©Liber Entertainment Inc.

千紗(しかし、お財布に厳しいなぁ~。)
柚葉「チサって本当に優しいんだね。私、チサみたいなお姉さんほしいな。」
千紗「……。」
柚葉「なにも言ってくれないの?」
千紗「精算しないと。」
柚葉「あー! 待って待って!」
("シスター・シスター" ep2より)

 エピソード"シスター・シスター"での、この千紗さんと柚葉さんのやり取りも大好きなんです。

 柚葉さんは「私、チサみたいなお姉さんほしいな。」って想像を巡らせるみたいに目を閉じて、そして千紗さんがどんな反応を返してくれるかを待つんだけど、当の千紗さんはお財布の中身に気を取られてたせいで反応がなくてね。 だから柚葉さんは予期をすかされるんだけど3、それは会話のイニシアチブがどちらにあるわけでもないから起きたことなんだろう。

 それで柚葉さんの様子に気付かないままの千紗さんがレジに向かっちゃって、柚葉さんは待って待って!なんて言いながら追いかけて――そんな風に二人の時間は流れてゆく。


あいり「でも、柚葉ちゃん、楽しそうだったね。昨日の夜の写真。」
千紗「そうね。」
「50枚くらい写真が送られてきたのは、ちょっと嫌がらせに近かったかな。」
あいり「きっと、千紗ちゃんに見せたかったんだよ。シンガポールの景色。」
千紗「そう? 何も考えてないだけだと思うけど。」
("What a girl wants" ep3より)

 だからここでのあいりさんと千紗さんの言葉は、きっとどちらも正解だ。

 シンガポールからたくさん送った写真をどう受け止めてほしいかを、柚葉さんは別に決めてなかった、考えてなかっただろうと思います。 だけど柚葉さんがその時々の気持ちのままに写真を送った理由を後付けで言語化するなら、それはやっぱり「千紗さんにその景色を見せたかったから」で、そしてその景色を見た千紗さんがどんな気持ちを抱いてどんな言葉を返してくれるかは、蓋を開けてのお楽しみ、なんじゃないかなと。

 空港から帰ってきた柚葉さんを千紗さん達三人が寮の入り口のとこで迎えるのがまた佳いのです。 もちろん千紗さんも口にする通り別にわざわざお出迎えなんてする必要はないんだけど、でもきっと、なんだかそれをしたい気持ちになったんだよね4。 そしてそれは、電話口の向こう、5000km離れた場所でお互いがどんな顔してたのかの答え合わせでもあったんじゃないかな。


  1. 行ったことないですが、物理的な時差は約2時間で、標準時では1時間の時差らしい。

  2. そもそも柚葉さんと千紗さんは感性含めた色々なとこが違ってて、柚葉さんから千紗さんの行動や気持ちを予測するのもその逆も、そんなに正確にできてはいないだろうと思います。だから柚葉さんに千紗さんがツッコむそのやり取りは、仕組まれた予定調和にはなりえない。余談ながら、その辺については"ランチタイム・アップデート"での千紗さんの振る舞いもとても好き。

  3. 千紗さん側がちょいちょいずっこけさせられてたことへの仕返しみたいになっちゃってるのも、見ていて楽しい。本人にそんなつもりは全くないんですが……。

  4. たとえば柚葉さんが出かける時にはちゃんと見送ることができなかったわけで、その代わりみたいな気持ちもあったりするのかも、とかね。