伏見ひろゆき"不本意だけどハーレムです。ただしネットに限る"一巻。

 結構長くブログ更新さぼってたなあ…。リハビリにラノベの話でも。
 で、"不本意だけどハーレムです。ただしネットに限る"。魂の恋人を本気の本気で求めようとするひと達の話。ほんと素晴らしいと思います。


 胸に抱く願いは、"「自分を好きになってくれて、自分を迎えに来てくれる人」"。そんな素敵な王子様を待つための茨のお城を自由に作れる場所があること、それだけでも夢みたいな話のように思われるけれど、でも実際問題として、そうして作ったお城にのこのこ理想の王子様が現れてくれるものか。公平に見て、そのお城にわざわざ踏み込むメリットは、本当のところ誰にもない。物語のお姫さまには、彼女がお姫さまだからこそ万難を排して王子様が現れてくれるのだけれど、茨のお城で眠る村娘の元には、そんな人は現れてくれないのが当たり前だ。
 むしろ、そんな茨のお城をクリアしてくれと頼む村娘の方が理不尽で、わがままで――それが公平で真っ当な道理になる。

 そのとき、それでもなにやかやと文句と言いながら茨のお城に踏み込んでくれるひとが現れる。そのひとは別に村娘を目当てにしてお城に来たわけでもないし、本気であれこれ文句を言いながら、なのに茨のお城に現れる魔王を頑張りまくって八時間かけて倒してくれる。それはどうにもこうにもワケの分からない、筋の通らない話で、でもむしろだからこそ、それは運命が、魂が導いたんだとしか解釈ができなくて。
 そこに『運命』を見出す瞬間の、このセンス・オブ・ワンダー


 もともと、仮想空間がピュアでリアルがどうでという翔くんの言いようは混乱錯誤している。仮想空間とその外とはもともと分かちがたく結びついていて、切り離せるものではないのは当たり前のことだ。だけど、仮想空間でしかありえない奇蹟のようなことが、夢のなかのように、心の底に抱いているありえない憧れを一瞬だけほんとうのことにしてくれる。
 もちろん、村娘のもとに王子様が現れてめでたしめでたし、で物語が終わるはずもなくて、仮想空間もその外も切り離せないままに、物事は進んでいくのはそれはそうだ。それでも、確かに、その時その場所でその運命じみた出来事が起きたことだけは否定できないのだよね。その仮想空間でしかありえなかった奇蹟が、とても素敵でかけがえがなくて。


 そこで、そうした奇跡を導くメカニズムが、あくまで翔くんの周りにある普通のテクノロジーで実現されるものでありつつ、かつ(徹夜状態で入れ込んだバグによるものなので)翔くん自身でもどうなってるのか分からないブラックボックスなシステムでもある、という描かれ方をするところも非常に好きです。
 それはそういうものなんだよね。当たり前めいていて特別でなくて、だけどなんでそうなってるのかよく分からないものに会った時、奇蹟は見出される。ただの偶然、そこに縁や奇蹟や運命やシンクロニシティを見出してしまうのは、人間の勝手な思い込みでしかないといえばそうだろう。でも勝手にものごとに意味を見出して、大切に思いなす、それが嬉しいことだったりするのが人情ってもので。

 あと仁村有志さんの清潔感ある絵柄も大変マッチしててよいです。二巻三巻もぽちったので、じっくり読みたい。