ロリポップナイトメア!

 大事なことはいつも夜に話される、というのが好き。夜は嘘と怪物と魔法とお菓子の時間で、夜でなきゃ大事なことは話せない。そりゃそうなんです。

"麻那「魔法、ですか」
……おや。
麻那さんの目が、若干輝いて見えるのは、気のせいだろうか……?
「いいですね、魔法。素敵です。それは好きです」
「その捜し物とやら、わたしも手伝いましょうか」"

 ね。魔法、素敵ですよね。


"いつも笑っていて、心の内を見せないトウカ。
いまいちどこか信用出来ない人。
一番古くて一番気に入っている関係の相手。
麻那「多分、わたしは……トウカに甘えてるだけなんだろうな」
「……ああ、やめようこういうの」
分かってます。
トウカに甘えているから、それで彼に強く当たってしまうんですよね。
このままじゃただのメンヘラ女子です。メンヘラ麻那botです。"

"……別に、トウカが他の女の子と身体を重ねてることに怒ってるわけじゃないです。
わたしとトウカは、恋人って関係じゃあないし。独占欲なんか持っちゃいけないし。
……なんてことを思ってるのに、何故かbot化してしまうわたし。"

 独白の描き方がいちいち良いです。

 "したいと思ってしてる"わけじゃない、でも"したいと思わないのにしている"というわけでもない、かといって"何がしたいのか分からない"というわけでもない、ないない尽くしの、どう記述すればよいのか分かんない状態って、普通にあることなんだけどさ。
 そういう風になっちゃう、ということについて、何がしかの価値判断を伴う口調で語られる*1のではないのが、印象深かったのね。離人症的っていうとズレちゃうんだけど、まず「こうありたい」「何をしたい」そういうモデリングから離れて、うずくまって布団の中でまどろんで物思うような、そういう思いのありようの表れとして、bot、という言葉が選ばれたような気がしていて。


 麻那さんとファンタズマさんの二人夜歩きものトコとかとても好きなのね。魔法のお菓子とか使われたら麻那さんとしてもどーしよーもないわけで、彼女自身が語ることをことさら意志的に選んだわけではないんだけど、流されるようにして、ぽつぽつ、と、言葉が出てくるわけです。夕方よりは遅くても、真夜中というほどでもない、8時くらいの秋の浅い夜に、二人して住宅街を歩く中で、それがなされる。

 よいお話でした。

*1:いやもちろん、麻那さんが、「そうある」ことについて何も思っていない、とかそういうことではなくてね。あくまで、語りの口調の問題として