枯れない世界と終わる花(1)

 どう書くべきか、けっこう悩むのですけれども。そうだなあ、まずは体験版をやった時の感想から書いていこうか。

"コトセ「レン、食べたままでいいからちょっとこっちおいで」
寝癖のついたレンの髪に櫛を通す。
「女の子なんだから、身だしなみには気をつけなきゃダメよ?」
「せっかく可愛いんだから、ちゃんとしないと」
次は温めた濡れタオルでレンの顔を丁寧に拭いていく。
面倒見の良いお姉さんでいいなぁ。
俺もちょっと面倒見て欲しいのは黙っておく。
「はい、綺麗になったわよ」
「こんな小さな女の子を野宿させるとか、ほんと信じらんないわね」
「もっとちゃんとしてあげなさいよ?」
ショウ「おっしゃること、ごもっとも」
「前向きに検討します」"

 体験版をプレイした時、パンケーキと紅茶と花の栞、そして小さな女の子の髪に櫛を通して綺麗にしてあげることへの、とてもとても微妙なこの距離感に、まずは心惹かれていました。それらを、あらねばならぬものとして、あるいはあり得べきものとして語るわけではない。けれどもそれはあらまほしきものではあって、というのかな。

"レン「せめて屋根のあるところで寝たいよぉ……」
ショウ「でも屋根がないと星が見えて素敵だぞ?」
「見上げてみろこの満点の星空を」
「星空の屋根なんてロマンチックだと思わないか、お嬢様?」
レン「ほんっとさいてー。さいてー」"

"レン「わぁ! 何コレ!? ねぇショウ、何これ!?」
ショウ「これはギャラクティカローリングダイナマイトパンケーキっていうんだ」
レン「ぎゃらくてぃかろーりんぐだいなまいとぱんけーき!」
「ぎゃらくてぃかろーりんぐだいなまいとぱんけーきおいしそう!」
ハル「違いますよ」
レン「ふぎゃー! ショウの嘘つき!! きらい! 大っきらい!!」"

 お腹を空かせることも、屋根の下で寝ることができず野宿をすることも、「そんなことはありえない/許されない」といった風に否定/否認されるわけではない。それらはどうしたって目の前にあり得ること、あり得てしまうことであって。でも同時に、温かくも美味しいパンケーキもまた、目の前に存在している。レンさんの喜びようも含めて、ほんと美味しそうなんですよね。匂やかで、華やか。だからそれは、あらまほしきもの、とでも呼ぶのがよいのかなと、まずは思ったのでした*1
 どちらか片方を否定するのは――「野宿なんてしちゃいけない」とか、あるいは逆に「パンケーキなんて食べてる余裕はない」とか――簡単で、かつ明快だ。そうしないとすれば、どうしても割り切れない苦しさのようなものを抱えることになる。でもそれは、容易に片方を否定しない真面目さ、あるいは潔癖さなのかもしれない。


"ハル「それで、来て頂いた用件ですけども」
「ふざけないで真面目に答えて下さいね」
真面目な空気を感じて。
俺も姿勢を正してハルに向かう。
ショウ「ああ、分かった」"

 この夜、それまで韜晦めいたことをよく口にしていたはずのショウさんが、本当にハルさんにまっすぐな答えしかしなかったことに――ショウさんに対してはいささか失礼な話ではあるけれども、正直に言ってしまえば――意外というか、驚きの念を抱いたのね。もちろん、ハルさんがショウさんとレンさんを店に招くことはとても重大な決断であって、それに対して真っ直ぐに答えることに不審などありようもないのだけれども、ともかくその時に分かったのは、ショウさんという人がすごく真面目なひとなのだということだった。

*1:最後まで読み終えた今となっては、それはあるいは作中の言葉を借りて「願い」などと呼ぶのがしっくり来るのかもしれないなあ、とも思うのですが