迷える2人とセカイのすべて(3)


フィア「こんぶは海のミネラルがたっぷりなの。でも、ぬるぬるして変なにおいがするの……」
一馬「いや……たぶん広原が欲しいのは、そういうのじゃないと思う。ていうか、あんまり持ってると匂いがうつるぞ。ポイしなさいポイ」
フィア「そっかー、ざんねん……ぽい!」

フィア「スバル」
嘆く六連星のシャツの裾を、フィアが引っ張った。六連星が、スマホを掲げてフィアの姿を見る。
スバル「フィアちゃん……! なあ、フィアちゃんならこの昆布の良さが分かるよな!?」
フィア「こんぶはポイしてきなさい」
スバル「そんなあああああああ!」
スバルが、涙と昆布のぬるぬるを撒き散らしながら海の家を走り出ていくと、それを力の限り投擲して戻ってきた。
「はあっ、はあっ。ポイしてきたぜ!」
フィア「はい、よくできました!」

 フィアさんが一馬くんの真似っこしてるの、よいですねホント。上原あおい大好きなん。

 それに一馬くんのフィアさんへの接し方も、 自分のお母さんや昔出逢ったエルフのお姉さんの真似をしてる部分というか、影響を受けてる部分があったりして。 あと、小さい頃の乙羽さんへの接し方の経験が活かされてたりね。

 別にフィアさんへの接し方に限ったことでもなく、 一馬くんは例えば、桃華さんと話してみたら上手くいったんだから、誰相手でもそうしようってシンプルに考えたりする人でね。 実際やってみて上手くいかないこともあるし、それは言ってしまえば準備や考えの足りなさ故みたいなところはあるんだけど。

 でもそれはけして間違ってない、と言いたくなるんですよ。 正しく交渉すれば話は通じるはずだから考え方自体は間違ってない、とかではなくて、 もしやり方として仮に間違っていたとしても、それでも想いは間違ってない、というか。 何でそう言いたくなるのかは、実は自分でもあまり明確ではないんだけど。


 何故なのかをつらつら考えてみるに、 誰かが自分に教えてくれたこととか、偶然見つけることができたうまくいく方法とか、そういうのってきっと、 自分だけの宝物みたいなものなんだよね、ということに思い至った。

 パパが教えてくれた言葉とか、敵だと思ってた相手があとで話してみると全然そんなことなかったこととか。 それって結局は個人的な経験に属することだから、単純に他に応用しようとするのは本当はあまり正しいことではないし、うまくいかないこともある。 でもそれは個人的なものだからこそきらきらしてて、宝物みたいに大切なものでもあって……だから多分自分は、一馬くんがそういうものを大事にするのが嬉しいのかな、と思う。 正しいかどうかとか、うまくいくかどうかとかじゃなくって。


テレビに海が写し出されるたびに、フィアがじっと画面に見入っていたのを思い出す。
一馬「海か……」
フィアから、海って何? と何度も聞かれて、でも俺は一度もうまく説明することができなかった。
単に、しょっぱい大きな水たまりというのも違う気がする。絶え間なく寄せる波も、フィアに見せてやりたい。

 うまく説明できなくて、海をフィアさんに見せてあげたい、って一馬くんが思うこと、すごくすごく好きなんですよ。 本当に一馬くん達は不器用だし考えが足りないんだけど(さすがにこればかりは断言するより他にない)、 でも例えば最後に一馬くんが手を伸ばした時の、あの想いのかたちに―― 願いを叶えようとする努力や祈りを捧げたりするのではなくて、ただ"優しいわがまま"1を抱くだけの心のかたちに―― 頷かされてしまった身としては、 そんな一馬くん達のもとに訪れる理の外にあるかのようなハイエルフの力を、ただ寿ぐよりなかった。



  1. 出典:桃華さん