ココロが繋ぐ恋標(3)

洸希「昔はどんなゲームやってたっけ……?」
日向「一番多かったのは、飛んだり跳ねたりして、敵をやっつけるゲームかな」
洸希「やっぱり、一緒にやるとなるとアクション系かぁ……」
「てか、ヒナ姉は意外と上手かったよな?」
日向「コウ君ほどじゃないと思うけど、普通には遊べてたと思うよ」
洸希「……いや、そうだ、思い出した。俺が半泣きでコントローラーを投げ出したステージ、ヒナ姉が代わりにクリアしてくれたんだ……なんか凍ってて、ツルツルすべるやつ」
日向「あ、うん、あったね。でもあれは、相性が良かったんだよ」
洸希「そうだな……ヒナ姉はひとつずつ慎重に進めて……俺はせっかちだから適当にやっていつも失敗して……」

 この辺のゲームに関するお話とか、しみじみ好きなんですよ。 子供の頃、日向さん自身はゲームはそんなにやる方じゃなかったけど、洸希さんがクリアできなかったステージを代わりにクリアしてくれたことがあった、っていう思い出話。

 人のやってるゲームを横で見てるだけでもなんだかんだ覚えるもんだよねとも思うし、 日向さんは昔からずっとカッコいいお姉ちゃんだったんだなあという気持ちもあるし、 つるつる滑るステージって嫌だよねーみたいな変な納得感もあったりして。 んで、その場にはきっとココロさんも居たんだろう。


ココロ「あぁー! コウキが食べられちゃう!」
洸希「あ、やばい! しぬしぬしぬ!」
日向「えいっ!」
ココロ「はわー! 尻尾、ちょぱーん!」
洸希「ナイス、ヒナ姉。あ、足引きずってる。罠、罠……」
日向「コレかな?」
ココロ「ビリビリー! って、してる!」
洸希「よし、あとは眠らせて……」
ココロ「あ、恐竜さん寝ちゃった!」

 だから、いま三人が一緒にゲームを遊ぶ姿が見ててとても楽しかったです。

 ココロさんはコントローラに触れることができないんだけど、でも横で見てるのとコントローラ握ってるのとに大した差なんてない。どっちも同じ場所で一緒にゲームを遊んでるってことなので。実況をぜんぶココロさんに任せて、無粋な地の文を挟まずにいてくれるのが有り難いですね。 こういうところでまたちょっと洸希さんのことを好きになるのだし、小波すずさんの声がまた素敵でもあり。


 洸希さんはココロさんが――あるいはココロさんの世界が――傷つき壊れることが嫌だと願っているんだろう。 そしてそれがただのワガママだという洸希さん本人の申告は、確かに間違いではない。

ココロ「コウキの手をひっぱって、二人でたくさんの子とお話して、100人くらいオトモダチを作れるのに、って」
「……そしたらもっと、笑ってくれるかな」
「あの可愛い笑顔で、笑ってくれるかな」
「たくさん、笑ってほしい」
「コウキに、笑ってほしい」

 だけどきっとココロさんもそうなんだよねえ、というのは本作のとてもとても眩しいところです。 ココロさんが洸希さんに笑ってほしいって願う気持ちは、洸希さんのそれとぴったり全て同じではなくて、けれどよく似ている。 真珠さんに笑ってほしいっていうのもそうで、同じではない、けれどよく似ている。

 この場面で「オトモダチ100人」というココロさんの目標に「洸希さんと一緒に」という言葉がくっつくことを初めて知った時、 そうだったのかとはっとする気持ちと、そうだよなあという気持ちが一緒にあった。 ココロさんがそう願っていたことには何も意外なところなんてない、ある種当たり前のことで、でもそこには胸がつまるような、胸を刺すようなものがある。

 それはたとえば、ある日朝焼けの空の色に見入って「その色は二度と生まれることはないかもしれないけど、でもその色は別に特別なものでも不思議なものでもない」と悟るような、そういうものに似ているのかなあ。